4.医療安全での実施例

スライド29

医療分野では、米国においてFMEAが1990年代から導入されているが、2000年に退役軍人局患者安全センターがその代表的モデル HFMEA を開発した。

HFMEAとFMEAの主な相違点は、失敗モードの影響解析を、独自に開発したRCA(根本原因分析法)により実施している点である。

HFMEAは、米国では保健医療機関連合会が普及に努めている。
また、日本では、2002年頃より、この手法が紹介され大学研究者や先進的な病院で使われ始めている。


スライド30
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HFMEAを実施するに当って基本的な考え方の第1点は「あらゆるものは誤りうるし、誤るものである」ということ。
ミスを個人の責任として追求するのではなく、注意していてもミスは発生するものであるということを認めアクシデントやインシデントについて、オープンに議論できる風土を作ること。

第2点目は複雑なシステムでは、それぞれの作業が相互に関連しており、そのシステムで起きた事故は個々に切り離して修復することは困難で全体をとめて修復するしか方法がない。
この図は事故のスイスチーズモデルといわれるもので、システム内にあるそれぞれの潜在的なハザードが、あるときに一直線に透視的に並んだとき突然事故として顕在化することを説明している。

従って、我々は事故として顕在化する前に、ハザードに対する予見的な対策が必要です。


スライド31
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HFMEAのステップは、基本的には先に説明したリスクアセスメントのステップと同じです。このスライドでは8つのステップで実施しており、ステップ2の「プロセスの図解」、ステップ5の「根本原因の把握」に特徴があります。


スライド32
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HFMEAの手順を順を追ってみていきます。
先ず最初にFMEAを行なうために、危険の高いプロセスを選択します。

この表は、米保健医療機関連合会の監視事象警報や、ヒュマンエラーを研究しておられる中條教授による危険性の高いプロセスですが、皆様の業務の関連では、「鎮静剤の使用」「造影剤の使用」のプロセスが推奨されています。


スライド33
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この図は、中條教授が過去のインシデント・アクシデントデータから抽出したヘルスケアの失敗モードです。
第2章スライド15で紹介した基本的な失敗モードの詳細です。


スライド34
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スライド34のづづきです。


スライド35
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HFMEAの失敗モードの評価は危険順位数 RPNで行ないます
危険順位数 RPNとは 重症度 × 発生頻度 × 検出可能性 のことで、この表は重症度の評価基準です。


スライド36
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発生確率の評価基準です。


スライド37
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検出可能性の評価基準です。


スライド38
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この例は、伝道聖ヨセフ病院出行なわれた「点滴装置安全使用のためのFMEA」の一部分です。


スライド39
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例えば、監視手順では、「患者本人あるいは家族が手伝おうとして、警報を切ったり、プログラムを変えたりする」という失敗モードが抽出され、「点滴部位がつまる、過剰投与や過小投与」という影響がある。
発生原因として「プログラムのロックができない」「ボタンに簡単にさわることができる」「利用者にわかりやすいプログラム画面」といったことが上げられ、これをリスク評価すると、RPN=157点と許容できる範囲を超えている。

これらに対して「家族に対する教育」「ポンプにステッカーを貼る」「ロックボタン付きのポンプ」「ポンプの動作部を呼び出し装置に機械的につなげる」といった対策案を考案し担当を決めて実施する。

以上が、実施例の一部です。


スライド40
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次にRCA:Root Cause Analysisについて説明します。
RCAは、インシデント・アクシデント情報の根本原因の分析に使用しますし、HFMEAのステップ5でも使用しています。


スライド41

実施の流れとして、最初にインシデント報告の中よりRCAを実施するものを選択します。
上の例は、VA(米国退役軍人病院)の考えを元に練馬総合病院副院長柳川達生先生が考案されたリスク評価の方法です。
選択の基準は発生頻度と重要度のマトリックス表からリスク評価点によって決定します。この例では、3点のものは、それぞれについてリスク評価を実施します。
また、2点以下の、最重要でない事例、最優先でない事例でも定期的に集積してRCAを行なっておられるとのことです。

お詫び
 この部分の先の記載が正確ではなく、柳川達生よりご指摘がありました。お詫びして訂正します。(2007年2月4日西村三郎)


スライド42

RCAの実施手順は、出来事の流れをフローで書きます。
そのフローのそれぞれについて「なぜ?なぜ?なぜ?」と繰り返して行き根本原因に達したところで対策案を抽出します。


スライド43

練馬総合病院の実施事例報告より、医療廃棄物のRCAの事例で具体的に説明します。

"回収業者Zが紙おむつだと思い廃棄物を整理していたところ、スピッツメスが袋から突き抜けて足に刺さり、怪我をした"というインシデント報告があがってきた。病棟の医療安全推進委員が状況を把握し、次の報告を受けた。
"包帯交換後の血液の付着したガーゼ、リバガーゼ、油紙、白ビニールテープ、注射器、スピッツメス、エラストポアの紙など汚物入りのビニール袋が、紙おむつ回収器に廃棄されていた。記録の内容と状況証拠から入院患者Aの処置時に発生した汚物と特定した。患者AはB型肝炎ウイルス感染者であった。


スライド44

この出来事をフローにすると7つのステップが上げられました。
ここではステップ4までを記載してあります。

ステップ3では

出来事:看護師は回診後刃物を含む全ての使用物を透明ビニール袋に入れた
なぜ?:看護師は刃物を分別しないのか?
なぜ?:回診車に刃物を捨てる場所がない
対策案:回診車を整備し、危険物を分別しやすいような定位置の場所を作る

となります。


スライド45

ステップ6では
出来事:職員Yが医療廃棄物の入った黒ビニール袋をオムツ入れに捨てた
なぜ?:分別を誤った場合防止する策はあったか?
なぜ?:適切に分別されているかチェックされていない
対策案:医療廃棄物が適切に分別されているか、各病棟でチェックする体制を作る

ステップ7では
出来事:オムツ回収業者Zが回収処理の際、中に入っていたメスで受傷した
なぜ?:なぜ医療廃棄物の混入に気がつかないのか?
なぜ?:オムツ入れにオムツ以外の物が混入していても中は黒ビニール袋で確認できない
対策案:オムツの袋を黒ビニール袋から透明か半透明ビニール袋に変更する

となっています。

この例では、なぜ?を2回しか記載してありませんが、根本原因が出るまで、なぜ?を3回を繰り返すよう努力されているそうです。

⇒ 5. まとめ

2006.11.07.16:00 | Permalink | MENU